月1,000ページの資料を7人で作成する、デザイナー教育と制作フローの効率化と工夫

湯淺 春樹

COO / デザイナー / セールス 湯淺 春樹

ぼくらの運営する資料作成代行サービス「c-slide」は、毎月約30件以上、約1,000ページの資料作成支援をデザイナーたった7名で行っています。セールス、ディレクターも各1名ずつの計9名で事業を運営しています。

本記事では、小さなチームで事業を運営するためのデザイナー教育と制作フローの効率化と工夫について解説していきます。

最後に活用しているツールの紹介も行っています。クリエイティブ制作を行う企業だけではなく、コンサルティングや代行サービスなど、クライアントワークを行っている企業にも、オペレーション効率化の何かしらのヒントにもなればと思っています。

目次

オペレーション効率化の必要性

まずは、なぜ事業を運営する上でオペレーションの効率化が必要なのかを解説します。

利益率を変えずに売上拡大が図れる

受託型ビジネスの売上は「案件数 × 単価」で構成されています。そのため、売上拡大を図るには案件の受け入れキャパシティを大きくするために人数を増やすか、案件数を変えずに単価を上げるかのアプローチが必要となります。

人数を増やす場合は中長期的な視点が必要で成果が出るまでに時間がかかるかつ、売上を拡大しても利益率が変わらない側面があります。単価を上げる場合は、業界内でトップのポジションを確立していない限り、案件数が減ってしまい結果的に売上は変わらないといった事態に陥ることもあります。

一方で、オペレーションの効率化を行うと人数を変えずに案件の受け入れキャパシティを大きくすることができるため、利益率を変えずに売上拡大を図ることができます。

競合優位性を築くことができる

また、オペレーションを効率化することで、通常人件費が発生していた工程もツールの活用で人件費を抑えることができ、利益率を高めることができます。

利益率が高まれば、競合他社よりも安価に提供しても問題なく事業運営できるため、料金面で競合優位性を築くことができ、案件数の最大化にも繋がります。

実際にc-slideはオペレーションの効率化を図ることで相場の半分以下のページ単価で提供することができており、圧倒的なコストパフォーマンスを高く評価いただいています。

オペレーションの効率を上げる方法

売上の拡大と競合優位性構築のためにどうオペレーションを効率化するのかについて、実際のc-slideの例を基に解説します。

c-slideでは、以下の2つのアプローチでオペレーションを効率化しています。

  • 受け渡しフローの効率化
  • デザイナースキルの標準化

受け渡しフローの効率化

c-slideでは、商談の対応はセールス、ヒアリングの対応はディレクター、資料作成はデザイナー、と分業体制をとっています。分業体制は1人の担当者がすべて対応する場合に比べて時間と工数がかかってしまうため、受け渡しフローの効率化を行っています。

ツールの活用を通して、各工程でのコミュニケーションの削減と作業効率の向上を行うことで月に対応できる1人あたり案件数を増やすことで、人数を増やさず従来よりも多くの案件に対応することができ、利益率を変えずに売上の拡大を図ることができています。

デザイナースキルの標準化

デザインは高いスキルが必要となり属人性が非常に高いため、デザイン性の高い会社や個人に依頼すると費用が高くなる傾向にあります。逆に費用が安い会社、個人に依頼すると納得のいかないデザインになる可能性もあります。

c-slideはこのデザインスキルを標準化し、属人化を防ぐことで、社内のPPTデザイナーの誰が作ったとしても同じクオリティのアウトプットを提供できるようにしています。これにより、相場よりも安いページ単価での提供を実現し、競合優位性の構築に繋げることができています。

それぞれのアプローチで行っている工夫と実際の取り組みについて解説していきます。

【1】受け渡しフロー効率化のための工夫

効率的に案件の受け渡しができるよう、以下の2つの工夫を行っています。

  • コミュニケーションを最大限に減らす
  • 1つ1つの作業の工数を減らす

1-1. コミュニケーションを最大限に減らす

人と人とのコミュニケーションは場合によっては非常に大切ですが、案件ごとに打ち合わせなどを実施していると時間と工数が増加し、コア業務に集中する時間を減らしてしまう可能性があります。

時間とリソースが限られている少数精鋭のチームでは、各人の担当業務に割く時間の確保が大切になるため、受け渡しの際に発生するコミュニケーションは最大限に減らすようにしています。

例えば、ディレクターからデザイナーに案件依頼をする際には打ち合わせで詳細を説明するのではなく、商談やヒアリングの録画データをデザイナーに共有することで、デザイナーが理解しきれない部分だけをディレクターに質問をするフローにしています。

1-2. 1つ1つの作業の工数を減らす

自身の担当業務に割く時間を最大限に確保しても、1つ1つの作業に時間がかかっていれば、対応することのできる案件数が減ってしまいます。そのため、作業にかかる工数と時間を減らし、業務の効率化を図ることが重要です。

例えば、ディレクターがデザイナーをアサインする際に都度デザイナーに依頼可能かを確認するのではなく、デザイナーの稼働時間を把握したうえで案件依頼を行うことでデザイナーの返事を待つ時間や確認を行うコミュニケーションの時間を減らすことができます。

受け渡し効率化のための制作フロー

効率化の工夫を踏まえて、どのような取り組みを行っているかを制作フローごとに解説します。

  1. デザイナーのアサイン
  2. デザイナーへの前提情報の共有
  3. 資料を作成
  4. デザインチェックバック

① デザイナーのアサイン

デザイナーアサイン時は「この案件依頼可能ですか?」「はい or いいえ」のコミュニケーションをなくすために、毎週デザイナーに週ごとの可能稼働時間をカレンダーに記載してもらっています。

案件コミュニケーションはすべてTeamsで実施しているため、Teams内のアプリを活用してカレンダーにすぐにアクセスできる環境を作ることで、稼働時間の確認からデザイナーアサインまでの作業工数の削減も行っています。

② デザイナーへの前提情報の共有

担当デザイナーが決定すれば、案件の前提情報を共有します。ここでは都度ディレクターとデザイナーがミーティングを組み、案件共有を行う必要がないようにタスク実行ツールと動画を活用しています。

抱えている課題感やc-slideに期待していること、納品形式など、事前に商談の際にヒアリングしている項目もサービス申込みの際のフォームにクライアントに記載してもらっています。

デザイナーはこれらの情報に加え、実際の商談・ヒアリングの録画データを見て案件理解を深めます。動画を見た上で不明点だけをディレクターに確認するフローにすることで、不要なコミュニケーションの削減を実現しています。

また、クライアント資料や資料内に挿入する必要のあるデータなどはGoogleDriveに格納し、ツール上からアクセスできるようにしています。

③ 資料を作成

デザイナーによる資料作成では、先述のスキル標準化の観点からフォーマット資料を全デザイナーに配布しています。スライドマスターであしらいやプレースホルダー等を配置した上で共有を行っているため、メインカラーを変更するだけでページデザイン作業に取り掛かることができます。

また、デザインマニュアルもNotionで共有しているため、デザインに迷った際もすぐに参考を見つけることができます。

こうした取り組みで、デザイナー各人のデザインクオリティの標準化と資料作成時間の削減を実現しています。

④ デザインチェックバック

ディレクターとPPTデザイン責任者が各資料のチェックバックをした上でデザイナーが修正を行い、クライアントへの提出を行っています。最終調整となるこの工程は非常に重要ですが、案件の数が多くなるほど、時間と工数が増加してしまいます。

案件コミュニケーションはSlackではなく、PPTデータを直接編集することのできるTeamsを活用ています。スレッド内に共有したPPTデータに直接コメントをすることで、チェックバック時間を削減しています。

また、デザイン修正ではテキストだけではうまく説明ができず認識齟齬が生まれ、修正完了まで時間がかかってしまうということもあります。そのような事態を防ぎ、コミュニケーションの削減を行うために画面録画ツールを活用し、録画した動画を共有しています。

【2】デザイナースキルを標準化するための工夫

次に、デザイナースキルを標準化するために行っている3つの工夫について解説します。

  • 未経験者を採用する
  • 絶対に譲れないルールを作る
  • ナレッジをすべてコンテンツに起こす

2-1. 未経験者を採用する

c-slideに所属しているPPTデザイナー8名の全員が資料を作成して報酬をもらうことがはじめての未経験者です。経験者を採用したほうが即戦力になりますが、未経験者に比べて自身の型ができている場合が多いため、デザインの標準化という観点ではお互い気持ちよく仕事ができない可能性が高まります。

未経験者の採用は教育工数はかかりますが自身の型ができていないため、自ら情報を掴み、インプットとアウトプットを短いスパンで繰り返し改善する姿勢があれば着実に成長します。

2-2. 絶対に譲れないルールを作る

ルールを曖昧にしてしまうと標準化は実現できません。会社にもルールがあるように、デザインにも絶対に譲れないルールを作る必要があります。ぼくらはこれを基本ルールと呼び、デザイン作成の際にどれだけ基本ルールを守れているかで採用の判断を行っています。

2-3. ナレッジをすべてコンテンツに起こす

デザインに関するすべてのノウハウ、ナレッジをあらゆるコンテンツに起こしています。1on1の時間を取り、1人1人丁寧にノウハウを解説するのも大切ではありますが、時間もリソースも限られている少数精鋭のチームでは現実的ではありません。

資料や動画、テキストなどに起こし、GoogleDriveやNotionなど、誰でもすぐにアクセスすることのできる場所に格納することで、デザイナーは効率的にインプットすることができます。

スキル標準化のための教育フロー

先述の工夫を踏まえて、スキルを標準化するための取り組みを教育のフローをごとに解説します。

  1. オンボーディング
  2. 基本ルールインプット
  3. 資料作成講座の受講
  4. デザインマニュアルのインプット

① オンボーディング

オンボーディングでは、c-slideの概要や哲学、強みの紹介に加えて実際の制作フローや報酬体系についての説明を行っています。1つの資料にまとめ、Notionに埋め込んで共有しています。

② 基本ルールインプット

先述の絶対に譲れないルールをまとめた、資料作成を行う上での基本ルールについて説明しています。こちらも資料にまとめ、Notionに埋め込んで共有しています。

③ 資料作成講座の受講

資料作成の未経験者のためにPPTの操作方法から伝わるページデザインの作り方までを解説した講座を全4回分用意しています。

  1. PPT操作編:PPTの操作方法を解説
  2. 基本ルール編:基本ルールの詳細を説明
  3. 前提思考編:資料の活用方法や構成の考え方を説明
  4. ページデザイン編:伝わるデザインの作り方を説明

成果を向上させるために必要な、資料の活用方法や構成の考え方についての解説と伝わるデザインを作成するためのページデザインの解説はテキストだけでは理解が難しいため、資料に加えて動画も準備しています。

④ デザインマニュアルのインプット

資料作成講座④のページデザイン編で解説した内容をマニュアルとしてNotionにまとめています。制作の際にすぐにアクセスすることができるよう、デザインごとに複数の参考デザインを用意しています。

さいごに

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。

オペレーションの効率化は成果に繋がりにくいと思われがちですが、案件数の向上や競合優位性の構築に繋がり、結果的に売上拡大に寄与します。また、各人の作業効率を上げることができれば、コア業務に集中する時間をより確保でき、生産性が高まるメリットもあります。

スキルの標準化や受け渡しの効率化は制作会社だけでなく、クライアントワークを行うすべての企業で取り組める内容になっているかと思いますので、参考にしてもらえるとうれしいです。

さいごに、各過程で活用しているツールについてご紹介しておりますので、効率化に課題を抱える方はぜひ活用してみてください。

タスク実行ツール「formwork」

https://product-formwrk.jp/

formworkはフォームを回答するだけで仕事が進む、フォーム作成・タスク実行ツールです。プロジェクトごとにワークフローを構築できるため、c-slide以外の事業でも活用しています。

各ステップで担当者や期限の設定ができるため、「〇〇さん、確認終わった?」「あれどうなってる?」などのコミュニケーションを減らすことができます。クライアントワークではクライアントへの追いかけ連絡などに時間を取られがちなので、formworkを活用するだけでかなりの効率化に繋がります。

商談解析AI「ACES Meet」

https://meet.acesinc.co.jp/

ACES Meetは、商談の内容をAIが自動で文字起こし、解析してくれるツールです。もともとZoomの録画機能を使い、録画データを社内で共有していましたがデータのアップロードの手間と動画を全部見ないと内容がわからないという面倒さがありました。

ACES Meetはリンクだけで動画を共有できる上に、自動で文字起こしされているため、自分が気になる部分だけの動画を見ることができます。動画視聴によるインプット時間の短縮にもつながっています。

クラウド画面録画サービス「Loom」

https://www.loom.com

Loomはワンクリックで画面録画を開始でき、音声とカメラをつけることもできるため、テキストだけでは伝わらないコミュニケーションをしたい際に役立ちます。録画したデータを共有しておけば、打ち合わせの必要がないため、時間に縛られず効率的に仕事を進められます。

また、録画したデータはローカルではなくクラウドに保存されるため、共有の際もリンクを送るだけで完了します。